10/7/24 システム・エナジー戦

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■7月24日(土)システム・エナジー戦

地下鉄丸ノ内線、方南町のホームから地上に出た男は、
この夏の暑さに辟易しながらタクシーに乗った。
今日の戦いの場である松ノ木運動場へは、わずか10分たらずの道のりだ。
車窓を流れるありふれた夏の風景。
畏怖の念を込めて、人から「エース」と呼ばれるその初老の男は、
この10分にも満たないささやかな旅を楽しむかのように、
車窓を流れてゆく夏の日の営みに目を向けた。
楽しげに過ぎゆく人々。夕刻からの開店に備え、打ち水をする日本料理店。
ファミリーレストランでは、にこやかに語り合う若い男女。
俺にも確かに、あんな日々はあった。
そんな感慨とも諦めともつかない、やっかいな感情を載せたまま
タクシーは右折レーンへとすべり込む。
今日はやけに浴衣姿の若い女が多いな。
そうか、調布の花火大会が確か今夜だったな……。
ジョギングするパツキン女性。ベビーカーを押す若い夫婦。
原付バイクの男と大きな荷物を抱えたおっさんの喧嘩。
なにもかもサイレントムービーのように、
タクシーの窓に切り取られた四角いフレームの中を過ぎ去ってゆく。
突然、何を思ったか、男はタクシーのパワーウインドウを下ろし
いままさに原付バイクの男に詰め寄らんとする、
大きな荷物を抱えた、ごま塩頭のおっさんに向かって叫びはじめた。
「杉本く〜ん、杉本く〜ん。おお〜い杉本〜っ!!!」

「ちょっと待て。あのなぁお前、だいたいこういう細い道では
バイクと歩行者とどっちが優先だと思ってるんだ? えっ?」
ユニフォームとスパイク、そして、バットとファーストミットが入った
大きなベースボールバッグを抱えた男は
後ろからクラクションを鳴らした原付バイクの男に対して
いままさにバットを抜き放たんとしていた。
その時、どこからか自分を呼ぶ叫び声が聞こえた。
そう、それは黄泉の国からの声のように、とても生きている人間の声とは思えなかった。
しかし、その声に現実の世に戻された男は、なぜか冷静さを取り戻した。 
まあ、いい。今回だけは勘弁してやるか。
俺はこれからもっと大切な戦いにのぞまなければならない。
男は次なる戦いの場に向けて、新たな一歩を踏み出した。

うだるような暑さと、時より吹く、気まぐれのような風に、
夏の夕暮れのそこはかとない懐かしさを感じさせる松ノ木運動場。
ウォーミングアップのキャッチボール中に、スプリンクラーの放水をまともに受けて
試合も始まっていないのに、まるで大汗をかいたように濡れネズミとなった10人の男達。
相手チームは、若くて動きがいい。これは手強そうだ。
逆に言うと、こっちは年食ってて、動きが悪く与しやすいということか。
まあ、いい。戦いは始まった。
草野球界の常識としては、極端にストライクゾーンの狭い審判ながら
失点を許さないエースの老練な投球。
ライトに誰もいない「湯一路シフト」の逆をつき、ライト方向に見事なヒットを打ち、
ツーベースを狙ったものの、ライトの強肩により、まんまとセカンドでアウトになるどグサレの正捕手。
キャッチャーから見ると、遠近法の関係で、
センター定位置くらいまで機関車バックして、セカンドフライを好捕した小さな大打者。
対戦相手も認める華麗な守備と、フェンス越えホームランを放った国士舘OB。
レフト線に抜けるかという痛烈な打球を横っ飛びで好捕し、
矢のような3バウンドの送球で、一塁アウトをとったファインプレーのサード軍団長。
平凡なライトフライでも、観る人をドキドキさせてくれるプレーの初代キャプテンの同級生。
堅実な三塁守備と見事なリリーフで、九州人枠から一人なら、
それは俺だと名乗りを上げた、某ではない方の九州男児。
そして、その他大勢。
まあ、いい。戦いは終わった。

週末の夜。西永福の巷には人があふれていた。
惨憺たる状態の相撲界を励まそうと向かった、なんとなく季節外れのちゃんこ料理屋は
ごったがえすほどの満員御礼で、年食ってて、動きが悪く与しやすい男達をはじき出す。
途方に暮れた男達が誘蛾灯のように瞬く灯火にひかれて入ったのは、
美人ママひとりでやり繰りするスナック風居酒屋だ。
そこでは島根県出身の常連客がひとり、テレビを観ながら飲んでいた。
いったい島根県ってどこにあるんだ?
まあ、いい。
入店早々「テレビ、オールスターに変えてもいいですか?」というどグサレの正捕手。
美人ママが飼っている猫を見つけたとたんに「かわいいけどウチの子の方がかわいい」
というどグサレの正捕手。
猫がドアを開ける動画を自慢げに披露するWINSのキャプテン。
え〜っと……あと誰がいたっけ?
完封目前なのに2失点という投手か?

まあ、いい。

ペン=本紙キャプテン


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