13/2/9 成城学園ダディーズ戦

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■2月9日(土)成城学園ダディーズ戦

 WINS、2013年第2戦。初戦、いきなりの大敗を喫したこともあり、ぜひとも勝ちたい一戦である。
 相手は、初めてのお手合わせとなる、成城学園ダディーズ。
 チーム名は、勝ちたい相手としてはかなりイイ線だろう。
 まず、成城学園。
 安田学園でも神村学園でもない、ましてやハレンチ学園でもない成城学園。学校名でもあり土地の名前でもあるが、誰もが思い浮かべるのは、第三山の手と呼ばれる超高級住宅街だろう。
 石原裕次郎邸、松田聖子邸などがあることでも有名、なにしろ邸ですから、たとえば若佐コーポなどという名称の狭隘な空間に住んでいるWINS事務局Gなどとは、もう人種が違うのでございます。
 コーポ? まあ、なんざます、いやですワ……。
 いわゆるセレブ。
 セレブは争いごとを好まないだろうし、必死で勝ちにくるようなことはないだろう。
 それに加えて、ダディーズだ。
 「父ちゃん!」ではない。だから、ちゃぶ台もひっくり返さない。だいたい、ダディーがいる家のダイニングテーブルは、とてつもなく立派で大きく、いったいどこから家の中に入れたんだろうと思うような、とてもひっくり返せるようなシロモノではないのである。
 成城学園ダディーズ。
 勝てるかも。
 WINSナインがそう思っても不思議はなかった。
 ただし、成城あたりのセレブというと、昔ラグビーをやっていたとか、今でもヨットに乗っているとか、飼っているアフガンハウンドと毎日一緒に走っているとか、余裕に体力がある気配もある。そこが気がかりではあった。
 試合が始まった。
 WINS先攻。相手先発投手は、ずいぶん若そうな、かなりの本格派。あれ? ダディーなの? ちなみに、こっちは40代後半、50代になっても独り身という男が多数。
 と思っていたら、いきなり二番三番が連続三振で三者凡退。
 まずいんじゃないの、これ……。
 しかし、WINS先発のエース古矢も、いつものようにノラリクラリ投法で、成城学園ダディーズの攻撃を0点に抑える。なかでも二番打者だったか、左打者のとんでもなく強烈な当たりがセカンドMASAの正面に飛んだのがラッキーだった。
 フィールドに散りながら、ダディーズナインのひとりが叫ぶ。
 「手こずるかもよ〜!」
 ふふふ。投げてるほうとしてはうれしい発言だが、一般的に言って「手こずるかもよ〜!」という言葉には、なんらかの前提が存在するものである。
 まあ、いい。
 ちなみにブッキングした事務局によると、先方戦力の自己評価は5段階の1.5だという。確かWINSも同じくらいでネット上に申告しているようだが、同じ1.5なのかなあ……。
 2回表の攻撃も、あっさり三者凡退。まるで打てる気配なし。推定攻撃時間10秒。
 しかし、初対面の相手にはとくに強いWINSエースのノラリクラリ投法、相手の強力そうな打線を、その裏も1失点に抑えた。
 そして3回表、事件は起きた。
 先頭のWHO選手が見逃し三振。
 これは、まさか、ノ、ノ、ノーヒットノーラン……。
 そんな不安がよぎりかけたときに、8番ゴローがサード前にボテボテの当たり損ね。これが幸いして、ついにWINS初出塁。
 「まだ年明け2戦目だし、お年玉としてヒットにしておこう!」
 ナインの明るい声が響いた。
 さらに、次打者エースが打席に入り、ひと言。
 「これは、ゴローが得意の駄走りでアウトになるパタ……」
 言い終わらないうちに、相手ファーストがミットを高々と上げる。
 「アウト!」
 球審がコール。
 えーっ!!
 隠し球である。
 あれれれれ? 成城学園のセレブが、隠し球?
 「ぎゃはははははははは!」
 いつものように、自分のミスでアウトになっているのに喜んでいるゴロー。
 エースが思わず叫ぶ。
 「成城学園の名の下に、そんなプレイをするなんて!」
 ナイスプレーの一塁手が、笑いながら頭を下げる。
 「すみません! もうしません!」
 あはははははは。いいね、この感じ。
 エースも相手投手の直球の勢いに押され、力ないピッチャーゴロでチェンジ。
 しかし、この日。初回のMASAの守備もそうだったが、WINSナイン、随所に好守が光った。
 確か3回裏も、右中間に抜けようかという強烈な当たりを、センター大久保がぎりぎりのランニングキャッチ。相手ベンチからも、微かにどよめきが起こったような気がする。外野からの中継プレーで、ショート山中が本塁にレーザービーム。間一髪アウトにしたというプレイもあったと記憶する。
 そんなこんなで、4回終わって0−3という、(力の差のわりには)けっこう緊迫したゲーム。
 ただし、4回のWINSの攻撃で、カトーさんがサードエラーで出塁したときの光景が気にかかった。
 ボテボテの当たりを三塁手が捕り、ファーストに送球。それが低投となりファーストがキャッチできなかったのだが、その送球がとてつもなかった。
 なんだ今の、ボールが見えなかったぞ。
 あんなのワンバウンドで投げられたら、捕れるわけないよな。
 それが7回8回の惨劇につながるとは……。
 WINSはエースから島ブクローへと予定の継投。
 6回にゴローの安打から相手エラーもあって、ようやく1点。
 6回を終わって1−5。残す攻撃は2回(通常7回までだが、WINSの攻撃時間が極端に短く、この日は試合が8回まで行われた)。
 「まだいける、まだいける!」
 ナインはそう言うが、さすが年の功、WINS監督・杉本とエース古矢は、向こうベンチの奥でキャッチボールをしている男の姿を見逃してはいなかった。
 「彼、さっきとんでもない球を一塁に投げた彼だよね」
 「だね。投球練習しているなあ……」
 7回表、その男がマウンドに上がる。
 なんだか、まだあどけない、とてもダディーとは言えない雰囲気。送球の凄まじさとは相反して、意外に細身で、けっして大柄ではないその姿。
 しかし、投げる球がやはりとんでもなかった!!!!!!!
 投球練習を見たエースがささやく。
 「オレ、30年近く草野球をやってきたけど、今まで見た中でいちばん速いね。以前、元3Aだっていう白人投手と対戦したこともあるし、大吉コモドアーズには上原と大体大で一緒のチームだったっていう男もいるけど、こんな速い球、見たことない」
 野球力に自信のある(が、最近その野球力に対し自信喪失気味?)大久保が「そんなに速いですかー?」と懐疑的な返事をしたが、わがWINSの二番三番四番が、一度もバットに当てることもできず三者三振だ!!
 「やっぱ、速いですね〜」
 大久保も呆気にとられる。
 「速い上に、少し動いているんスよ〜」と、空振り三振をした山中。
 その勢いに押されたのか、7回裏、島ブクローの制球が乱れるとともに、それまで意外によかった守備も乱れて、決定的な6失点。
 相手の長い攻撃の間、WINS杉本監督は、先方ベンチを訪れ情報収集。
 「2年前、S実のキャプテンだったんですって(笑)」
 おいおい。レベルが違うとわかってはいたが、そこまで違うとは……。
 「今は大学のレギュラーだって。なんか、メジャーに挑戦するために明日からアメリカに渡るそうですよ」
 ええーっ!! そんな日にWINS相手に投げていていいのか!? しかも軟球で、肩を壊したりしないのか!?
 こうなると、焦点はWINSの誰がバットに当てることができるかに絞られる。
 草野球のよいところは、どんなに力の差があって点差があったとしても、1点だけは取ろう、せめて1安打、なんなら出塁だけでも、いやバットに当たればいい! ……と、それぞれの状況に合わせて目標設定ができることにある。
 「デッドボールもらったら、体がバラバラになっちゃうよー」
 味方のそんな忠告を受け、野球帽の上にキャッチャー用ヘルメットを被って完全装備した監督が打席に向かう。
 すると、あ、当たった!!
 体ではなく、バットに。ただのファールだが。
 「当たった、当たった!」
 WINSベンチはお祭り騒ぎ……って、子どもか!?
 しかし、結果はやはり空振り三振。WHOは渋く四球を選んだが、四球はいちばんつまらない結果だろう。相変わらずつまらない男である。
 最後は、ゴローが外角低めのストレートにバットを動かすこともできずに、見逃し三振でゲームセット。アウト6つは、すべて三振。
 いやー、いいもの見せてもらった。
 試合が終わったあと、トンボをかついで挨拶してくれた、その爽やかな笑顔もよかった。
 やったれ、青年!
 WINSナイン一同、アメリカでの成功をお祈りしています。

ペン=本紙エース


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