18/6/9 ヘリオス戦

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■6月9日(土)ヘリオス戦

「読みたくないわけじゃないんですよ、ただ単にプライオリティーの問題ですよー」
 試合前、村ケンの発言にエース古矢はわが耳を疑った。
 日本唯一の草野球新聞(?)『ヨンスポ』復活の話である。
 2014年以来、4年ぶりとなる『ヨンスポ』。しかもその2014年シーズン『ヨンスポ』も、最後の2試合分は、写真なし原稿のみという、もはや新聞というよりアジびら、あるいは檄文のようなアングラな形での発行だった。
 ……てな話をしても、誰も覚えてないか。
 とにかくその『ヨンスポ』が写真付きで復活したというのに、冒頭の発言である。
 たしかに、アメリカ最大の衣料製造小売業のJAPAN支社につとめるハイパービジネスマンである村ケンにとって、『ヨンスポ』はさほど重要な存在ではないのだろう。
 村ケンの朝……。
 「あなた、卵は何にする?」「うーん、今日はサニーサイドアップの気分かな。あっ、両面焼きでね」
 そんなブレックファストを終えたあと、コーヒーを飲みながら読む新聞は、やはり『ニューヨーク・タイムズ』か『ウォールストリート・ジャーナル』、百歩譲って『日本経済新聞』だ。特定の宗教を信奉するWINS監督であれば、それはあの新聞かもしれない。
 たしかに『ヨンスポ』のプライオリティーは低い。
 しかし、だ。
 「おい、みんな、まさか『ヨンスポ』を読んでないわけじゃないだろうな」
 そんなエース(『ヨンスポ』主筆)の言葉に対するナインの返答は「えっ、『ヨンスポ』出たんですか?」「あー、まだ読んでないー」「……(知らないし興味もないが、ここは黙ってやりすごそう)」。
 まあ、ここまではいい。
 「ああ、読もうとしたんですよ。でも、まだなんです。今度読みますよ、読みます。だって読みたくないわけじゃないんですよ、ただ単にプライオリティーの問題ですよー」
 これが村ケン発言全文だ。
 こういうとき、「プライオリティー」などという言葉を持ち出す人間というのは、どういう人間だろうか。
 「あなた、遅くなるならなるで、なんで連絡くださらなかったの?」「いや、連絡したくなかったわけじゃないんだ、ただ単にプライオリティーの問題だよ」
 これでキッチンから包丁を持ち出さない妻がいるだろうか。
 「おい、きみ、あの書類まだできていないのか」「いや、やってないわけじゃないんですよ、ただ単にプライオリティーの問題ですよ」
 これで次の重役会議で村ケンの雇用契約の解除について話題にあげない上司がいるだろうか。
 ご意見ご感想は、『ヨンスポ』宛にどしどし送ってほしい。
 まあ、たしかに、反省もある。
 せっかくいい形で今季初勝利をあげた試合の『ヨンスポ』にもかかわらず、トップを飾ったのは、なんというか……辛気くさいというか、高座にあがるのに疲れた柳家小三治のようなWINS監督杉本の姿だった。
 「これでは売れん」
 刷り上がったばかりの紙面を見て、エース古矢は思っ……た(この溜めが重要)。
 だが、『ヨンスポ』にも『ヨンスポ』の苦しい事情がある。
 というか、まだ今日の試合は始まらないのか。
 始まらない。
 まずは、なぜ『ヨンスポ』がこの4年間発行されなかったか、その裏事情の説明からしなければならない。
 それはつまり、『ヨンスポ』の整理部&輪転機ともいえる事務局Gことゴローの工場勤務が、とても忙しくなったからだ!
 そして、なぜ『ヨンスポ』が復活したか。
 それはつまり、『ヨンスポ』の整理部&輪転機ともいえる事務局Gことゴローが、工場勤務の契約を解除され、いまや悠々自適の失業手当暮らしだからだ!
 そして、なぜハッピーなはずの『ヨンスポ』復活号のトップが、高座に疲れた柳家小三治の写真だったのか。
 それはつまり、『ヨンスポ』のカメラ班が、整理部&輪転機も兼ね、一応選手でもあるゴローしかおらず、試合中の写真がほとんど撮れないからだ!
 さあ、この現実をどうする、WINSナイン?
 「面倒くさい『ヨンスポ』なんか、なくてもいいじゃん」
 ごもっとも。
 草野球をやるのも、『ヨンスポ』を発行するのも、誰に強制されたわけでもない。
  だからこそ、売れる紙面にしなければ……。

 「よろしくお願いしまーす?」

   そんなことを考えていたエースとゴローの目の前に、突如、黒衣の天使が舞い降りた。
 場所は、WINSがかまえる三塁側ベンチ前。
 「今日は、名古屋競馬の騎手の彼女が参加してくれました」
 対戦相手ヘリオスの監督である平松さとしさん(この人も有名な競馬ライター)が、小柄な女の子を連れて挨拶に訪れてくれたのである。
 「あっ、きみ、今日のテレビ中継に出てたよね!」思わずエースが言う。しかし、心の中では、(でも、テレビで見たより可愛い気がするなあ。ひょっとして違うの?)と思っていた。
 「はい! 見ていただいたんですね?」
 そう言われて、必死にテレビ中継での彼女の言動などを思い出そうとするエース。その間、0コンマ数秒。
 「ば、馬券も当ててたよね!」
 たしか彼女、メインであるアハルテケSを予想して、馬連を6頭BOXくらいで当てていた。
 「はい!」
 明るく答えてくれた黒衣の天使は、名古屋競馬所属の木之前葵騎手。
 2013年にデビューして、今年の初めにすでに通算200勝を記録している名手だ。比べるのも申し訳ないが、わがWINSは1990年にデビューして28年、200勝にはとうてい到達していないはずだ。
 挨拶に来てくれた平松さんは「彼女は野球初体験」と言っただろうか。
 「だから打たせてあげてください」
 そう言い残して、自軍ベンチに帰っていった。
 呆然と見送るWINSナイン。
 「彼女さー、球場の外にいたときに前を通ったら『よろしくお願いします!』って明るく挨拶してくれて、いい子だよねー」
 すでに骨抜き状態のカトー選手。
 そしてようやく試合が始まった。
 前々日まで参加者7名。そこから久々の栗山選手参戦決定、さらに事務局Gが必死にネットで助っ人を募集して来てもらった清水選手(背番号30)、上田選手(背番号22)が集い、安心の総勢10名。
 と思ったら、杉本監督が足をひきずっている。
 「ねんざしちゃってさあ」
 守りどころかDHにも自分を入れず、けっきょく9人ジャストか……。
 先発はエース。いきなり四球を与え、続くヘリオス二番打者。思い出すと、左門豊作と山田太郎を足して3で割ったような、つまりふたりよりちょっと小柄だが強打者感ありありの選手に、いきなりレフトの高い金網を越える2ランホームランを浴びる。
 そしてさらに、次打者だったかその次の打者だったか忘れたが、ライトに大きな当たり。
 ライトには、前後左右の動きはまったくないが、真上に上がった打球だけは捕球するというエポック社野球盤型外野手のカトー。
 打球はカトーの斜め前で弾み、勢いよく抜けようとしていく。
 そこで野球盤型野手にしては珍しく、左足を差し出したカトー。
 あの子にかっこいい姿を見せようとしたのか……。
 しかし、ここで断っておくが、プロの野球で打球に対して足を出すのはピッチャーだけである。にもかかわらず、WINSの場合、本日センターを守っている村上1号にしても(サッカー経験者だからか)、なぜか外野の打球に足を出し、相手チームの打った球を草野球場特有の広い外野の奥深くに蹴り込んで、スーパーオウンゴールを生んでしまうのだ。
 ここも案の定、そうなった。
 これで3点。
 しかし、その後は本日助っ人に来てくれたふたりが鉄壁の三遊間だったこともあり、計4点で1回表終了。
 対ヘリオスとしては、上々の立ち上がりといえるかもしれない。
 しかもその裏、先頭の清水選手が敵失で出塁すると、暴投など相手ミスをついてノーヒットで1点を返した。
 1−4。
 2回3回のヘリオスの攻撃は、やはり助っ人三遊間、そしてレフトの“プライオリティー男”村ケンの好捕などもあって、1失点に抑えた。つけ加えるならば、本日はセカンドのコアラくんことMASAも、無難な守備を見せている。
 そして3回裏。
 先頭、次打者と倒れるものの、三番栗山が二塁打で二死二塁。
 登場したのが、本日四番に座るカトー。1回のチャンスには投飛に倒れたが、またまた巡ってきた「いいところを見せられる」好機。
 グワンギーン!
 打球がセカンドを守る黒衣の天使の横を抜けて行く。
 タイムリーヒット!
 「あそこに打っちゃダメですよー(笑)」と、ヘリオス投手の平松さん。
 これで、2−5。
 4回からは、満を持して栗山が登板、4回5回を1失点の好投。
 守備も光った。どちらの回だったか、無死満塁の絶体絶命、相手は左の三番打者。まつ毛が長く可愛い顔をしているが強打者だ。
 「前進前進! ホームゲッツーいこう!」ベンチから監督の指示が飛ぶ。
 その声が終わるやいなや、鋭い打球音が轟いた。
 えっ、どこに飛んだ?
 ブワッッッッシーーーーーッン!
 打球は低い弾道でファーストを守っていた前進守備のエースの真正面に飛び、グラブの土手に当たってグラウンドに落ちた。
 「な、何が起きた? ど、どうするオレ?」ファーストのエースが地面に落ちたボールを見つめ、自分に問いかける。
 「ホーム、ホーム! 全然間に合うよ!」栗山投手が叫ぶ。
 ホーム送球、アウト。ふーっ、危なかったー。あまりにいい当たりだったので、走者は飛び出すヒマもなく、もし捕っていても併殺は無理だっただろう。そういうことにしておこう。
 しかし、さらに満塁のピンチは続く。
 そこに、またしても鋭い打球音。
 今度はファーストからもよく見える。ショートのはるか上を弾丸ライナーが飛んでいこうとしている。
 ズバババババーーーーーン!
 今度は、気持ちいい捕球音が響いた。ショートを守る背番号22、上田選手がジャンプいちばん(この「いちばん」ってなんだろう……)、ライナーをキャッチし、走者が飛び出したサードに送球して、アウト!
 ゲッツー成立だ。
 いやー、お見事、お見事!
 そして、忘れてならないのは、黒衣の天使の第3打席だ。
 投手は栗山。キャッチャーはゴロー。彼女はその前の打席で、おそらく人生初体験となる、本番でバットにボールを当てるという行為にセーコーしている。(※編集部注/この文章はけっしてセクハラではありません)
 だが、残念ながら三振。
 しかし、キャッチャーのゴローが正規捕球できない。
 「振り逃げ、振り逃げ!」
 なぜか両軍ナインが一斉に叫ぶ。
 一塁に向かって走り出す彼女。とっとと一塁に送球すればいいのに、面をとって追いかけるゴロー。
 その瞬間、世界がスローモーションに変わった。
 あははははははは、きゃはははははは。
 波打ち際を走る男女。
陽射しにきらめく水面。やがてふたりのシャツは濡れて……。
 「あー、追いつかねー!」ゴローの叫びで世界はもとのスピードに戻った。
 そりゃそうだろう。相手は現役バリバリの騎手。ゴローごときに差されるようなことはあってはならない。危うく逃げ切られるところを、一塁への送球で免れた。
 それにしても、追いかけているときのゴローの楽しそうな顔といったら。
 ゴローの青春。
 WINSナインの頭の中には、そんなタイトル文字が大きく浮かんだことだろう。
 そして、サンキュー、木之前葵騎手。
 おやじたち相手に明るい笑顔で野球を楽しむ姿。
 JRAの人気女性騎手、藤田菜七子ちゃんが「黒髪美人大賞」なら、ヘリオスの黒ユニフォーム姿のあなたは「黒ユニ美人大賞」だ。
 決定! 第1回「黒ユニ美人大賞」、木之前葵さん!
 次回対戦の際には、WINSからぜひ記念品(何?)を贈呈したい。
 試合はその後、栗山選手のソロホームランで3−6まで追いついたものの、最終回にその栗山の制球が乱れ、途中から急遽助っ人清水選手がマウンドに上がってなんとか火消しをしたものの、計8失点で勝負あり。
 ちなみに、清水選手登板の際、監督の指示はゴロー登板だった。ファーストを守っていたエースが、それを無理に清水投手に変更させてしまったのは(だって、清水投手のほうが絶対に制球が安定していると思ったんだもん……)、明らかな越権行為といえる。
 本来ならエースの座も辞すところだろうが「二度とこういう行為が起きないよう職責を全うしたい」、エースはそんなコメントを残しているという。
 それにしても長い『ヨンスポ』だ。
 本来書かなければいけない、生活の糧である仕事の原稿も放り出し、昼飯を食うのも忘れて、何をやっているんだろうか……。文字数を計算したら、なんと約4,900字。400字原稿用紙12枚強。バカである。

  ●ペン=本紙エース

追伸
 気になる反省会だが(誰も気にしてない?)、MASAの不参加が謎かつ残念だったが、今回はしっかり『さかなや道場』でオリジナルボトルを注文。けっきょくのところの会計額はともかく、納得のできる注文だったといえるだろう。「相手チームとはいえ、やっぱり若くてカワイイ女の子がいると楽しいよねー」。カトー選手のしみじみとうれしそうな発言も印象深い。閉店間際、それまで注文の皿を置いて逃げるように戻っていた美人女子店員。エース曰く「尼神インターのあのつっぱり女を可愛くして不良っけを抜いたような子」(じゃあ、尼神インターでもなんでもないじゃん)も、バイト終わりの開放感からか「この近くに二次会ができるようなお店はないですよー。わたし、地元ですから。えーっ、わたしの家の近く? ないですよー(笑)」と意外に愛想がよかったことも忘れないように記しておこう。


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