18/9/17 荻窪ロボス戦

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■9月17日(月祝)荻窪ロボス戦

「あっ、まずい」
 助っ人・清水三塁手の前でイレギュラーバウンドしたゴロがレフト前に転がったとき、ベンチに下がっていたエース古矢は思った。
 このときレフトの守備位置にいたのは、珍しく監督・杉本。
 エースは思わず「逸らすなよ」と心の中で念じた。
 一方で、それほど勢いのあるゴロに見えなかったため、「まあ、逸らしても大けがにはならないだろう」とたかをくくってもいた。
 しかし、草野球には「外野が逸らしたゴロ&万歳した打球は、なぜかその後加速する」という法則がある。
 レフトのグラブの下を抜けたゴロは、息を吹き返したかのようにスピードを増し、少年少女たちが練習をしているA面グラウンドに転がっていった。
 遥かかなたに転がり続け、やがて見えなくなった白球。追っていくレフト杉本の姿は逆にスローモーションのようだ。
 ああ、マウンドに立っている辻投手は今、地球最後の日に、水平線の彼方に沈んでいく落日を見ているような気分なんだろう。
 草野球歴およそ50年、何度もその気分を味わったエースには、その気持ちがよくわかる。
 ましてや、この日の辻は、2回を投げて降板したエースのあとを受け、これまでの3回をパーフェクトピッチング。
 助っ人・清水選手、同じく栗生選手、同じく元木選手という、声も出る鉄壁の内野陣、さらには遅刻参加だったものの外野全域をひとりで守っているといってもいい大久保の活躍もあり、WINSナインも、辻投手が完全投球を続けて勝利を収めることを確信していたはずなのだが。
 イレギュラーバウンドのサードゴロが、けっきょくソロホームラン。
 しかし、まだ7−5とWINSのリードは2点ある。
 ところが、いつもポーカーフェイスで味方のエラーに動じない辻も、さすがにこの1点には動揺したのだろうか。続く打者に、この日初めてのフォアボールを献上。アウトカウントは忘れてしまったが、迎えるのはロボスの捕手。左の強打者だ。
 「カトーさん、バック。MASA、行くぞ〜!」
 ベンチからライトのカトー選手と、セカンドMASAに声をかけたエース。そこで思わぬ声が上がった。 
 「えーっ、誰がMASAなんですかー!?」
 三塁側の金網にへばりつくように観戦していた、ユニフォーム姿の女児ふたりだ。
 「セカンドを守っているちっちゃい人がMASAだよ」
 エースが教えると、嬌声を上げて仲間を呼びにいくふたり。
 戻ってくると、「ほら、あそこ」「えっ、どこ? どこ?」「帽子かぶってない人」「今、動いた」「あっ、腕をかいた」。
 まるで新種の虫を発見したかのような女児男児たち。
 どうやら彼らのチームにも、同じ名前、MASAがいるようだ。
 「MASA〜〜〜〜〜!!」「MASA〜〜〜がんばって〜〜〜〜!!」エースを真似て声をそろえる。
なんて人懐っこい連中なんだ。
 ロリコンでもあり年増好きでもあるという振れ幅の大きいゴローがもしもベンチでひまだったら、必ずや「抱っこしていい?」と聞いたことだろう。
 「MASA〜〜〜〜〜!!」
 そんな黄色い声援を引き裂くように、鋭い打球音が轟いた。
 「わあ〜〜〜っっっ!」キッズたちが心底驚いたという声を上げる。
 ロボス捕手の打球が右中間高く飛んでいく。
 ライトのカトー、センターの大久保、そしてなぜかセカンドのMASAまでが追っていくが、ボールは遥かかなた。
 2ランホームラン。
 これでついに同点、その裏WINSが無得点に終ったところで時間切れ。
 1回、辻の3ランホームラン、2回に出た杉本監督の「冥土の土産」同点ソロホームラン。満塁のチャンスでの四番カトー2点タイムリー、元木選手の鋭い当たりの2打席連続ヒット、栗生選手のレフト前ヒット、清水三塁手のサードライナー好捕(記録はサードゴロ)、ゴローの変化球に軽くひねられた恥ずかしい三振、エースの悔しい3タコ……すべての思い出が、引き分けという結果に集約されていく。
 1回表、ロボスの攻撃時、センターとライトに飛んだ二度の浅いフライのどちらかを外野手が捕っていたら。捕らないまでも、うしろに逸らさなかったら。冒頭に記した6回の当たりをトンネルしなかったら……。
 なんか〜(by大坂なおみ)、そんなことを考えながら書いていたら、そもそもセンターを守るはずの大久保選手が遅刻してきたことに、すべての原因があるように思えてきたのは気のせいだろうか。
 「グラウンドは上井草なのに、手前の下井草で下りちゃったんですよ〜」
 大久保はたしかそう言っていたように記憶している。
 まあ、人生、そんなこともあるだろう。ロボスの二番手投手、ダイナミックなオーバーハンドから角度のあるストレートを投げる若手も、尻上がりにいいピッチングになっていた。
 余談だが、西武新宿線は、下井草と上井草の間にひと駅あり、それがなぜか井荻駅である。下井草と上井草の間なら、中井草か井草ではないのか。
 100歩譲って、同じ「井」の字のつく井荻はやめてほしい、そう思っているのはエース古矢だけではないだろう。だけ?

●ペン=エース古矢


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