18/9/22 ヘリオス戦

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■9月22日(土)ヘリオス戦

 夕日はつるべ落とし、やけに宵闇が早く迫り、妙に寂しい気持ちになる秋。四谷WINSナインのもとに、いやな足音とともにアレが届く。
 スタスタスタスタ。
 「今日という今日は絶対に読まないぞ」
 カトーも村ケンも頭から布団をかぶり、体をふるわせる。
 しかしアレは、どんなに戸締まりしようとも、着信拒否しようとも、厳重にかけた心の鍵をこじ開けて、ナインの胸の奥底に届いてしまうのである。
 やけに個人的な視点で書かれている記事とともに、WINS最近の試合結果がつぶさにわかってしまうという、『ヨンスポ』。
 ひいぃぃぃぃぃ、また3タコ……! おまけにタイムリーエラー……! 反省会と称する飲み会でお会計がひとり6,000円……!
 しかもこのヨンスポ、一度読むたびに寿命が100日縮むという噂もある。
 この日の見出しは……。
 『闇に閉ざされた二枚橋球場 消えた短パンの恐怖』
 WINSナインで唯一「ボクにとってはヨンスポのプライオリティーは高いですよ」とうれしいことを言ってくれた栗山の手も、その見出しを見てふるえた。
 クククククククク。
 恐怖のあまり正気を失ったのか、顔は笑っている。
 この日、WINSはこれまで一度も勝ったことのない、というか善戦もしたことのない相手ヘリオスとの対戦。こちらから申し込むのであれば、とてもじゃないが恥ずかしくて対戦など望めないが、なぜかこのヘリオス、弱小WINSにも積極的に対戦の声をかけてくれる。
 ありがたいことである。
 しかし、WINS正式メンバーは、まだユニフォームのない栗山選手を入れてわずか6人。事務局ゴローの尽力でネット募集の助っ人、略して“ネすけ”を3人集めてジャスト9人という、夜の墓場をロウソク9本で歩くような心細い編成だ。どんな編成なのか。
 ただし、初参加のネすけ3人は、なかなかの強力メンバーだった。
 まだ大学生だという中村選手は、今後の成長を考えると身長2mにも届くはずの大物だ。試合前、ゲンかつぎの東小金井『宝華』宝そばセット(油そば+半チャーハン)を食い終わったゴローは、タクシー乗り場に、ソフトバンクホークスのユニフォームに身を包んだその姿を発見して思わず叫んだ。 
 「で、でけえ! なんでしたっけ、あいつ、あいつ、そうだ、ギータだ! ギータがいますよ、ギータが!」
 さらに、試合前エースがキャッチボールの相手をつとめた吉里選手。口数は少ないが、ウォーミングアップで投げる球がすべて変化してエースのグラブに収まる。300球ほど投げただろうか、いや30球ほどかもしれない。そのすべてがゆらゆらと曲がる人魂のようなスライダー。これは相当な曲者だ。ことわっておくが“まがりもの”ではない。“くせもの”。
 こういうタイプは、人数が少ないときはとくに心強い。
 もうひとりのネすけ、中野選手については後述。
 今回の『恐怖新聞』、いやヨンスポも長くなりそうだ。
 ヘリオス先攻で試合がはじまった。
 WINSのマウンドにはエース古矢。1回表、内野ゴロエラーなどでランナーを許すものの、意外にあっという間に0点に抑える。上々の立ち上がりだ。
 その裏、先頭のネすけ中野選手のバットが火を噴いた。レフトオーバーの二塁打。初対戦ではまずタイミングの合わないヘリオス平松投手の投球を、ものの見事に弾き返す。
 続く吉里選手の当たりはセカンドゴロ。
 しかし、吉里選手の曲者オーラが好守をほこるヘリオス守備陣を動揺させたのか、エラーを誘いノーアウト一三塁。いや、このエラー、たしか送球エラーだったような気がするので、その間に先制点が入ったか。  とにかく、ヘリオス相手に1回を終えて1−0。
 さらに2回表。ここでもエース古矢がランナーは出すものの踏ん張り無失点。なかでも、3つ目のアウトはWINSバッテリーには超珍しいプレイだった。
 二死一三塁か二三塁でワイルドピッチ。バックネットにキャッチャーのゴローが走る。エース古矢がマウンドを駆け下り、サードランナーもホームに突っ込んでくる。
 いつものWINSなら、ボールに追いついたゴローが得意の大道芸ジャグリングを見せるか、送球を受けたエースが落球するか、そのどちらかだろう。
 しかし! ボールに追いついたゴローが振り向きざまに素早く送球、ホームで待ち構えるエースのグラブにボールがしっかり収まり、タッチも完璧だった。
 スリーアウト!
 「ナイスカバー!」サードの中野選手がエースに声をかける。まあ、自分のワイルドピッチではあるが。
 これでゲームセットなら、ヘリオス戦初勝利だったが試合はまだ2回。
 その裏、先頭のエースが珍しく平松投手の魔球をとらえ、無死走者一塁。続くゴローがショートの横に鋭い打球を飛ばす。
 抜けた!
 誰もがそう思った瞬間、ヘリオスのショートを守る、小柄だがしなやかそうな身体をした選手が横っ飛び、すぐに起き上がりセカンド送球、フォースアウト!
 いやー、敵ながらあっぱれ。
 起き上がった姿は、どことなく大阪桐蔭の根尾選手に似ている。ちなみにあとで本人に言ったところ、「それ、田舎臭いってことですよね?」。「いやいや、根尾くんは未来の大スター候補でしょ」。
 ゴローはそのあと盗塁を決めたが、一死二塁でレフト前にふらふらっと上がった監督・杉本のフライを、二三塁間のハーフウェイ、捕られても二塁には戻れない、落としても三塁に投げられたらタッチアウトというどっちつかずな位置にいて、けっきょく二塁に戻れず併殺。
 もちろんこれは、喝!
 相変わらずの駄走りキングだ。
 3回からは、満を持してネすけ中村選手がマウンドに上がる。四球を出すも、ときおりマウンド上で「シャーッ!」とみずからを鼓舞しながら、必死の投球。体格と気合いのわりに球速が出ていないのは、本日すでにどこかで一戦投げてきたためだろう。
 3回表こそ3点に抑えたものの、4回には大量8点を奪われ、いつの間にかいつものヘリオスペースに。
 打線も、3回4回は、4連続ピッチャーゴロという珍記録。しかも、栗山選手のキャッチャーゴロをはさんで、続く村上1号もピッチャーゴロ。ベンチに帰った相手が「守りは、ピッチャーとキャッチャーとファーストだけでいいんじゃないですか?」と言っている。
 たしかに。
 5回にマウンドに上がった吉里投手が、その曲者ぶりを発揮してヘリオス打線を0点に抑え、エポック社野球盤型ライトのカトー選手が、久々にライトフライほとんどその場キャッチという妙技を成功さするなどの見せ場もあった。
 しかしその一方、ダブルスチールに近いかたちでWINSに追加点が入るかと思われたシーンで、またしてもランナーであるゴローの駄走りが出て、本塁到達前にファーストランナーがセカンドでアウトになるという、情けないプレイもあった。
 けっきょくWINSのヒットは中野選手の2本とエースの1本。サードを守っていた中野選手は、一塁への送球も素早く、ほとんどノーバウンドで素晴らしかったが、ヒットがチーム合計3本では勝てない。
 そして試合後、二枚橋球場にありえない現象が起きた。
 どこからやってきたのか、あらわれた謎の老人。
 「急がなくても〜〜いいですよ〜〜」
 風のほとんどない夜の球場に、その声は夜鳴きそばの笛のように響いた。
 「急がなくていいと言っておいて、のんびり着替えているところをうしろから襲うんだ……」
 ゴローは、とっさにダバシリボッチのことを思い浮かべていた。
 野球の試合で思慮のいちじるしく欠ける走塁をした者を、とって食ってしまうというダバシリボッチ。
 ひいぃぃぃぃぃぃぃっ!
 今日は21時終わりではなく19時終わりなので、照明が突然消えてしまうこともないだろうと、謎の老人のお言葉に甘えて落ち着いて着替えをするエース古矢を残して、ゴローはあわてて球場の外の暗闇に出た。
 ホラー映画の場合、これはたいてい惨殺されるパターンだ。
 そして数分後。
 着替え終えて最後に球場を出たエースが見ると、そこには……。
 ようやくユニフォームの下を脱ぎ、上半身裸、下はデカパンだけというゴローがいた。
 「お前ー! 試合を終えたら一刻も早く反省会、えーと、今日なら東小金井『さかなや道場』か? 宴会場に向かうのが決まりなのに、何のんびり着替えてるんだよ!」
 エースの怒声がとどろく。
 「暑いんすー」
 いちいち相手をしているのも疲れるので、エースは中村選手らと雑談をはじめた。
 「へー、新潟県警に入りたいんだ? もし入って、オレが新潟でスピード違反とか起こしたら……へへ、わかってるよね?」「いやー、それはちょっと」「まあ、オレ、免許持ってないけどね」
 「あっ、きみ、ホークスのユニフォーム着て中村って、ひょっとして晃?」「いえ、弟がアキラです。漢字は違いますけど」
 どうでもいい話が続く。
 どれだけ時間が経過しただろう。「そういえばゴローは?」と思ってふり向くと。
 えっ……。
 そこにはあり得ない光景が。
 「ゴ、ゴロー……お前の下半身……」
 たしかさっきまでデカパン一丁だったゴローの下半身。
 それが、あろうことか、WINSユニフォームの下をはいているのです!!!!!!
 「お、お前、さっきすでに脱いでたはずだよな……それがなんで……」
 WINSナインが恐怖のどん底に突き落とされた瞬間だ。
 「それが……」
 ダバシリボッチに食い千切られて自分の下半身がなくなっていることに今気づいた犠牲者のような声で、ゴローが言った。
 「はいてきた短パンが見つからないんですー」
 ひいぃぃぃぃぃぃぃっ!
 アホか。
 「そういえば、あの老人……」
 気がつけば、謎の老人の姿は煙のように消えてなくなっていた。
 ただひとり自転車で来ていた監督・杉本が、謎の老人を追って闇に消える。
 「ひ、ひとりで行かせていいのか?」
 「いいんじゃないですか?」
 見送るWINSナイン。
 ゴローの短パンはいったいどこに消えたのか!?
 このあとどうやって反省会会場に向かうのか!?
 謎の老人の正体は!?
 反省会のお会計は!?
 以下、感動の最終回に続く!

●ペン=エース古矢


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