20/3/21 ヘリオス戦

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■3月21日(土)ヘリオス戦

 もしかすると今日は……。
 監督代行・エース古矢の五臓六腑に予感めいたものがひらめいた。
 春の予感である。「春の予感」といえば資生堂1978年のCM、♪I’ve been mellow〜〜by南沙織がすぐさま思い浮かぶが、エース古矢はその前年の小林麻美が出ていた♪ちょっと走りすぎたかしら〜〜と歌う「マイピュアレディ」のほうが好きだった。
 これが五臓六腑に予感ではなく悪寒だと、時節柄かなりやばい。
 3月21日、「あのときの気の緩みがいけなかったのでは」と巷間噂される、三連休のど真ん中。
 ちなみにエース古矢、昨夜は新宿呼ばれ酒で夜の9時過ぎから飲酒を開始、当然のごとく「もう一軒、もう一軒」と新宿はしご酒。最後は、呼んでくれたふたりも帰り、自分も帰ればいいのに、さらにもう一軒、新宿ひとり酒。家にたどり着いたのは、朝の6時? いや7時だっただろうか。
 五臓六腑に悪寒がしてもおかしくない状況ではあった。
 猿江公園野球場、宿敵ヘリオスとの一戦。
 宿敵といっても、2015年の初対戦から2019年まで25戦して全敗。そのほとんどが大敗で、接戦といえた試合はわずか3試合(2015年の3対5、2016年の1対3、2対5)。ちなみにその3試合すべてに、なぜか参加していなかったWINS主要メンバーがひとり……(※決して過去の対戦記録からその人物を割り出さないでください!)。
 そして、今年に入ってからダブルヘッダーを入れてすでに3試合全敗。つまり、28連敗中の相手なのです〜〜〜〜〜〜!
 これで、どんな予感がするというのだろう。
 まあ、予感とはいえ、そうしたオカルト的なものはじつは実際にそこにある現実から導き出された「予想」のようなものであることが多い。
 周りを見渡すと、本日のメンバーは、エース古矢にゴロー、村ケンという純正WINS構成員3名。
 WINSユニを持たない準構成員・辻くん。そしてその系列ともいえる、どグサレ系半グレ軍団の山P&慎太郎。
 そこに、いつもの常勤助っ人軍団、中野さんにタッキー。好敵手サンライズから木内さん、服部さん、諏訪くん。“浮間船渡”笹崎系から、以前WINSに参加してくれて、どでかいホームランを放ったこともある小川くん。
 これで12名。しかも、なぜかあの「WINS主要メンバー」がいない(←しつこいよ)。
 さらに! エース古矢が昨年から栄養費を与え育ててきた大型新人シン・スズキ(本名/鈴木真)が、ついにそのベールを脱いだのである。
 その日、すでに第4形態まで成長したシン・スズキは、両手を十分に伸ばし、2足歩行をしながら球場に現れた。
 で、でかい。
 もしかしたら、猿江公園の木々の向こうに見えるスカイツリーよりでかいかも? 聞くと、全長1m88cmだという。
 ……という総勢13名。
 「もしかしたら今日は」という春の予感もまんざら嘘でもなさそうなメンバーではないでしょうか。
 ウォーミングアップが終わり、軟投派助っ人タッキーが監督代行にこういった。「ちょっと肩が痛くて、今日は投げられそうにないんですけど……」。
 「そうか〜。辻?小川?諏訪とつないで、最後にストッパーとして登板してもらう予定だったんだけど。わかった、じゃあ、今日は3人の継投でいこう!」
 監督代行が、やけに素早く決断する。
 そこにヘリオスの平松監督が現れ、先攻後攻を決めるジャンケン。平松さんが勝ち、先攻を選択。
 「えーっ、先攻!? うちが先攻したかったな〜!」
 駄々をこねるエース古矢。
 優しい平松さんが軽くひと言。
 「じゃ、先攻します?」
 「いいんですか〜。では、遠慮なく。今日は人数が集まったんで、(少しでも打席が多く回るように)先攻したかったんですよ〜」
 試合前からこんな駆け引きが行われていたと知るメンバーも少ないだろう。
 さて、ここで……。
 説明しよう!
 この平松さとし監督、一見ただのユニークな野球好きオヤジだが、じつは海外競馬にも詳しい高名な競馬ライターであり、このナイター草野球の翌日の夜、ドバイワールドカップ取材に向かおうと、アーモンドアイを出走させる国枝調教師らと成田空港での搭乗手続きを終え、飛行機に乗り込む直前にコロナ禍によるW杯中止の報を受け、UAE行きを取りやめたという、そんな人物なのである! UAE行きの前日の夜に草野球! どんだけ野球好きなんだ!
 ようやく試合が始まった(相変わらず前置きが超長い)。
 駄々をこねて先行させてもらったWINS、今日の先頭打者は常勤助っ人中野さん。ヘリオスのエース平松さんの超変則スロー投球にもかなり慣れているはずとの、監督代行采配。
 それがまんまとハマり、いきなりフォアボール。あの投球、ストライクに見えて、実際にはホームベース手前でボールゾーンへと落ちていくことが多いのだが、それを待てずに引っかけてサードゴロ、ショートゴロというのが、いつものWINSパターン。
 よく見た、先頭中野! 
 続くタッキーが、今度はセンターに抜けていくヒット! 中堅手が浅く守っていたため一瞬セカンドで封殺かと思われたが、珍しくジャッグル、ランナー中野は余裕でセーフ。
 これで無死一、二塁。
 ここで本日の大砲、三番小川選手登場……のはずが、ネクストバッターズサークルにもいない。
 見ると、ベンチ中央で連れの女性と濃厚接触中。
 「えっ、誰がバッターですか? あっ、オレ!?」
 あわてて打席に向かう小川選手。大物だ。
 しかし、初対戦の変則投球に大きな空振り。ただ、フルスイングの威力にたじろいだのか、平松投手が珍しく1イニング2個目の四球を与えてくれる。
 ノーアウト満塁で、WINS最高レベルの野球人である辻くんの登場だ。どでかいチャンス! ……だったが、気負ったのかサードゴロ。
 それでも、三塁手の動きをよく見ながら中野がホームイン。続く服部選手はいい当たりだったが、センターフライ。
 大きなチャンスにわずか1点だが、まあ幸先よしとしよう。
 そして、1回裏からの辻投手の投球が圧巻だった。
 まずその1回裏、振り逃げを含む奪三振3、最後はピッチャーゴロ。
 2回裏も先頭打者を三振に切って取ったあと、調子こいたのかイージーなピッチャーフライを落とした上に四球を与え一死一、二塁のピンチを招いたものの、ショートゴロを服部選手がなんなくさばき三塁封殺、最後は三振で無失点!
 相手ベンチからも「いいピッチャー、いいピッチャー!」の声が上がる。
 1?0のまま迎えた3回表。
 どグサレ球団・畠山直毅選手の息子である先頭の慎太郎選手が、サードゴロエラーで出塁。続く村ケンは内野ゴロに倒れたものの、大型新人シン・スズキが粘って四球を選ぶ。
 一死一、二塁のチャンスで打者はゴロー。
 そこでワイルドピッチだったか? 二、三塁に走者が進む。
   カキーン!
 鋭い当たりがセンター方向へ。やったか、ゴロー!?
 しかし、惜しくもセンターがナイスキャッチ。二死、二、三塁。打席に向かうのは監督代行、古矢だ。
 (辻くんの好投になんとしても報いたい……)
 気合いを入れて高めの投球にバットを一閃。
 カキーン!
 ゴローの当たりと違い、これは左中間!
(レフトもセンターも捕るな!)
 古矢の願いのこもった打球が野手の間に落ちる。
 何十年目ぶりかの野球だという二塁走者シン・スズキも、野球勘は衰えていないのだろう、無事生還。
 3対0。
 「ナイスバッティング」
   一塁に出た古矢に相手一塁手が声をかけてくれる。
 「いやー、久しぶりですよー。平松さんの球は打てないですからねー」
 スポーツマンらしい、じつにさわやかなやりとりである。
  そして3回裏。辻投手はヘリオス打線相手にここまでノーヒットノーランピッチング。
 先頭をサードゴロに打ち取り「ひょっとして……」と思わせたところで、さすがにヘリオス、センター前にクリーンヒット。
 しかし後続を抑え、完封ペースは維持。
 三遊間に飛んだゴロを「おらおらおら〜」と積極的にさばき、ファーストへ豪送球を見せた小川選手、それを事もなげに処理したファースト木内選手の守備も光った。
 「こりゃもう、行けるとこまで行こう!」
   監督代行が辻投手およびベンチに声をかける。
 しかし、いつものWINS劇場が4回裏に始まった。
 ヘリオス先頭打者が、意表を突く三塁前へのバント。続く打者を三振に取ったものの、その間に盗塁だったか進塁を許し、次打者のセンター前ヒットでついに失点。
 さらに、ライトへのフライを、この回から守備に入った慎太郎選手が、グラブに入れながら落球。そこから何がどうなったか記憶は曖昧だが、 たしか最後はレフト前ヒットに山P選手がホームにレーザービーム投球しながら、間一髪セーフ。
 これでとうとう同点。
 しかし、走者が飛び出していたのを二塁三塁間で挟む。草野球でもっともドタバタプレイを生み出しやすいランダウンプレイだ。
 「おらおらおら〜!」三塁手・小川がランナーを追いつめ、二塁手・村ケンに送球。今度は村ケンが「どうすんの? どうすんの?」とランナーを深追いし、送球。
 こんなやりとりが二度ほど。
 通常こうした場合、送球した野手は送球した方向に走り抜け、ボールを受けた選手の後ろで次のプレイに備えるものだが、原っぱでバッタや蝶を追いかける少年のように純粋な心を持った村ケンは、「バッタ、どこ行った?」とその場にたたずみ続ける。
 「どけ〜っ!」
 小川三塁手の怒声がグラウンドに響いた。
 わははははは。
 非常事態に際しては、こんな単刀直入な指示が効果を持つ。なんとかスリーアウト。
 4回を終わって3対3。
 「辻くん、次の回まで行って、6回から小川くんに代わろう。みんな、また点取ろうぜ!」
 監督代行はそういったものの、心の中では「強敵ヘリオスが相手では、善戦もここまでか」。そんなふうにも思っていた。
 だが5回表、またまたドラマは起こった。
 先頭の服部選手が、左の軟投派に対しあえて左打席に入るという奇策でライトオーバーのどでかい当たり。
 「行ったか?」 
 打球は一段高くなった猿江球場の金網フェンスは惜しくも超えなかったが、二塁打!
 続く諏訪選手もセンターへ大きな当たり。ヘリオス中堅手が追いつくかと思ったが、ぎりぎり届かず(グラブには当たったか?)三塁打! 
 木内選手もクリーンヒットで続き、再び2点勝ち越しだ。
 今日のWINSは、やはり違うのか。
 山Pこそサードゴロに倒れたものの、盟友・慎太郎がレフト線上に落ちる適時打!
   「その前に自分のエラーで辻さんに迷惑をかけていたので、泣きながら打ちました」(試合後の慎太郎選手)
 じつは辻投手、小柄といってもいい体格で物腰も柔らかいが、顔は『アウトレイジ』系。いつ何時「なめてんのか、ゴラァ!」とキレるかわからないポテンシャルを感じさせる男だ。
 体格では数段勝る慎太郎選手も、恐怖におののいていたのだと推察する。
 さらに村ケンがセンター前ヒットで続き、あのゴローまでが二塁打!!!!
 ついでに二死二、三塁で古矢の打球は三塁前へのボテボテのゴロ。
 必死に走った古矢は見ていなかったが、これをサードが弾き、さらに1点追加。
 続く中野選手も豪快な二塁打を放ったが、一塁ランナー古矢が返れず。しかしこの回一挙6点!
 これで9対3。
 辻投手は5回裏に1点取られたものの勝利投手の権利を持って降板、6回からは小川投手がマウンドに。
 「球、速いんですよね。どんな球かキャッチャーやらせてください」
 辻選手が志願の女房役。
 途中からキャッチャーをやっていた諏訪選手が監督代行につぶやく「今日はボク、登板はないですね」。
 「いやいや、状況によってはわからないよ」
 諏訪選手が一塁に回り、木内選手が三塁へ。
 辻選手がレガースなど着ける間、古矢が投球練習の捕手役。小川投手の第1球。
 ずどどどどどどーん!
 「うわわわわわ〜っ」
 ストライクゾーンで投球を受けた古矢がそのまま後ろに倒れそうになる。
 「相手を驚かせる作戦ですかー(笑)」ベンチからゴローが叫んだ。
 いや、これ、マジでした。
 その小芝居の甲斐もあり(?)、不運なヒットがらみで1失点したものの、見事な投球で6回を終わり、9対5。
 時刻はすでに18時30分を回っている。球場を明け渡すまでには、あと15分? 20分?
 「7回表の攻撃がちょっとでも長くなれば……」
 監督代行の脳裏に、この日初めて「予感」ではなく「確信」が芽生え始める。
 ちなみに「自信が確信に変わりました」といったのは松坂投手。
 だが、WINSの攻撃は、敵失でランナーを出したものの、ほぼ瞬時に終了。
 でも、もう時間はない。
 7回裏、ヘリオスの攻撃は、四球、レフト前ヒット、セカンドゴロ。さらに四球で、この間にワイルドピッチなどあり、2点。
 9対7。
 続く打者はサードファウルフライ。
 これを木内選手がなんなくキャッチし、ついにツーアウト!
 だが、試合はまだ終わらない。
 次打者に四球。またランナーがふたり溜まった。
 うひーっ。勝つって大変。
 「ツーアウト、ツーアウトォホホホ〜〜!」
 妙に甲高く裏返った声でファーストから諏訪選手が叫ぶ。
 この男、ふだんは強気な発言が多いが、じつは小心なのか? いや、勝ちに対する貪欲な気持ちが裏声になってあらわれたのだろう。
 一方、小狡い監督代行は心の中でこうつぶやいていた。
(ここで諏訪くんにピッチャーを交代すれば、投球練習の間に時間切れだろう。ふふふふふふ)
 しかし、ヘリオス平松監督は潔かった。
 バックネット裏に集った少人数な野球人に近づき、「次、球場お使いになるんですよね? じゃあ」と審判に駆け寄り、ここでゲームセット。
 9?7X でWINS、とうとうヘリオスに勝利!
 だが、泣き崩れるヒマもなく、とっととグラウンド整備して撤退だ。
 でも、やった、やりました、全国のWINSファンの皆さん!
 見事な辻?小川リレー。鮮やかな打線。堅実な守備。
 大きな声ではいえないが、大型新人シン・スズキを守りにつかせないという、勝ちにこだわる監督代行の非情采配もあった。
 そして勝利の美酒。
 山P&慎太郎というヤング半グレ軍団に囲まれた中野さんが、早くも怪しくなった呂律でいう。
 「WINSはやっぱりいいですね〜。いろんな人がいるじゃないですか。この人たちとか」
 シン・スズキも続く。
「もう何十年ぶりかで野球をやって、打てませんでしたけど、全力で走るなんてふだんないじゃないですか。気持ちよかったなー、全力で走るの」
 さらに一次会を終えて二次会に向かう都営新宿線の車内。
「もう〜、帰りたいっす〜」とグズるゴローに対し、「まあ、そんなことを言うなよ。せっかくヘリオスに勝った記念すべき日じゃないか。もっと飲もうぜ」とエース古矢。
 そして、なぜかふだんは言わないひと言をつけ加えた。
 「行けば、いいことあるかもしれないぜ」
 そこで「そうですかあ?」と応じたゴローも単純だ。
 じつはその「いいことある」予感も、ズバリ的中という奇跡。
 二次会の途中、がら空きの新宿三丁目『みくに丸』に、見知らぬうら若き女子2名がやって来て……。
 そこからの顛末は、この『ヨンスポ』があまりに長くなってしまったので、アップされた写真からご想像ください。
 また会おうぜ、ミズキ&アヤノちゃん!

ペン=エース古矢


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